まささん、映画「恋の手ほどき」を語る

ミュージカル映画・音楽映画の歴史
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ミュージカル映画・音楽映画の歴史32(私の映画体験110)

初めに

 今回ご紹介するのは、1959年制作のヴィンセント・ミネリ監督の「恋の手ほどき」です。この作品は、この年のアカデミー賞の作品賞、監督賞を初め、10部門を受賞した名作です。MGMミュージカル映画の帝王と言われた製作者アーサー・フリードの最後の作品としても有名です。1940年代、50年代、一世を風靡したMGMミュージカル映画の最後の輝きをご堪能ください。

 曲は「マイ・フェア・レディ」の作詞・作曲のコンビであるアラン・ジェイ・ラーナーとフレデェリック・ロウのコンビ。尚、この作品もアメリカ国立フィルム簿に永久保存されています。

あらすじ

 ジジ(レスリー・キャノン)は、明るく、活発な少女。祖母のマミダ(バーミオン・シンゴールド)に養育されています。マミダは、ジジを立派な淑女に育てようと、昔社交界で活躍した妹のアリンタイザベル・ジーンズに学校が終わってから上流社会で通用するようなお作法の勉強を教えて貰っています。でも、ジジはこの授業が退屈で退屈であまり好きではありません。

 マミダの昔からの知り合いのホルノー・ランジョイエ(モーリス・シュヴァリエ)(この二人は、昔何かあったような、なかったような。)はジジが大好きです。ホルノーの甥のガストン・ランジョイエ(ルイ・ジュールダン)。彼は、砂糖王の二代目で大金持ち。プレイボーイの彼ですが、彼もジジの無邪気で明るいところが大好きです。時間を見つけては、彼は、ジジを連れ出して気の置けない時間を過ごします。

 時を経て、ジジも立派なレディになってガストンに連れられて社交界にデビューします。ジジはリンダの教えた通り、そつなく社交界のしきたりををこなします。でも、ガストンは素朴なジジではなく、取り澄ましたジジが気に入りません。素直で明るいジジを追い求めているのです。

 幾つかの障害のあるエピソードを経て、やはり、ガストンは、ジジを愛していることに気が付きます。そしてジジに結婚を申し込みます。さて、ジジはこの申し出を受けるのか。さあ、どうする、どうする。

またまた、ベルエポックの話

 しかし、モーリス・シュヴァリエという役者は、本当に粋なパリっ子を体現していますね。燕尾服にシルクハットをちょっと斜めにかぶった姿など、まさにパリの粋そのもの。スクリーンに立っているだけですさまじい存在感を醸し出しています。これに対抗できるのはジャン・ギャバンぐらいでしょう。アラン・ドロンやジャン・ポール・ベルモンドなどはまだまだまだまだ。

 この作品の舞台は、20世紀初頭のパリ。「花の都」「芸術の都」と言われていた時代です。先に映画「フレンチ・カンカン」でご紹介したように「ムーランルージュ」に代表されるキャバレー文化が大衆に支持されている時代です。

 しかし、上流階級も黙っていません。貴族や大金持ちのブルジュア達は、豪勢な自宅を開放して、所謂サロン文化を咲かせました。そこには詩人のマラルメ、ランボー、コクトーや作曲家のドビッシー、ラベル、ストラビンスキーなどが集い、毎夜毎夜、いろんなサロンで詩人は新作の詩を発表し、作曲家は新しい曲を披露しました。そこら辺のことは、青柳いづみこ著「パリの音楽サロン」(岩波新書)に詳しく書かれています。面白い本ですよ。

 大衆文化と上流のサロン文化。両者は時に反発しながら、時に融合しながら、パリの街の芸術を盛り上げて行きます。そして、世界中の芸術家たちはパリを目指して集まります。まさにパリの街は世界史上まれにみる「芸術の都」として輝いていました。

ヴィンセント・ミネリという監督

 ヴィンセント・ミネリという監督は、この映画では、20世紀初頭に活躍した画家たちをかなり意識しているように思います。主人公のジジが公園で遊ぶシーンに降り注ぐ陽光が眩しく人物を少しぼやけて映すところなど、まさにルノアールの絵画そのもの。その他にも印象派の絵画を意識したシーンも多く観られると私は思うのですが、どうでしょう。

 ヴィンセント・ミネリという監督は、前にご紹介した「巴里のアメリカ人」や「バンドワゴン」などミュージカル映画の巨匠にイメージが強いですが、普通の映画も多く取っています。

 「炎の人ゴッホ」(56年)「いそしぎ」(65年)「晴れた日に永遠が見える」(70年)など佳作も多いんですが、私がこの監督で一番好きなのは、スペンサー・トレーシー、エリザベス・テーラー主演の「花嫁の父」(1950年制作)です。

 娘のテーラーがフィアンセをつれてトレーシーの父親に紹するところから映画は始まります。その後、結婚式、披露宴と続きますが、父親のトレーシーが、慣れないながらもあたふたしながら、一生懸命娘のために頑張ってる姿をほほえましくもユーモラスにトレーシーが演じています。心温まる、素晴らしい映画です。

 しかし、ヴィンセント・ミネリという監督は、エリザベス・テーラーという女優を本当にきれいに撮りますね。とにかくこの監督は、19世紀のアメリカを代表する監督の一人であることは、間違いないでしょうね。


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